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会員の視察・旅行記

【ジオ・ポンティ設計の南伊ホテルを訪ねて】根元美奈(2009年9月)

南イタリア、ナポリ湾を臨む街ソレントの岸壁に珠玉のホテル「パルコ・デ・プリンチピ」がある。伊の近代建築・デザインの父であるジオ・ポンティが設計したホテルである。幸運にもそのホテルに去年の初夏、1週間ほど滞在することができた。ぬけるような青空とサファイア色に広がる蒼い海原。遠くに世界一の青!と言われている「青の洞窟」で有名なカプリ島が浮かんで見える。見渡す限りの青・蒼・アオ一色の世界。穏やかなナポリ湾の佇まい、停泊しているクルーザーたちの優雅さ・・・まるで別世界に紛れ込んだような感動を与えてくれる。これこそが旅の醍醐味!

ジオ・ポンティはこの青をコンセプトカラーとしてホテルデザインに取り入れている。ホテルに一歩足を踏み入れた瞬間からポンティのオリジナルデザインによるブルーのタイルたちに目を奪われる。レセプションのカウンターに始まり壁・エントランスロビーやレストランの柱・床、エレベーターホール、客室の床、テラス等々いたるところに何種類ものタイル装飾が施されている。南伊の温暖な地域性もありベッドルームの床使用も違和感なく受け入れられる。当然、家具もポンティのオリジナルデザインですべて青を基調にコーディネートされている。室内に見る青のクール感、静謐さがテラスから広がる海の蒼さにそのまま引きずられ一体感となっていくような錯覚を起こす。

街中に踏み出せばエネルギッシュな南伊人たちの喧騒の世界がひろがる。あまりのにぎやかさにーまさに切れ目の無い機関銃トークに苦笑―最初は閉口していたものの、彼らの底抜けに明るい人間性にうち解けこちらもテンションのレベルアップ。ラテン民族の典型を見た気がする。

レモンが特産のソレントは「レモンチェッロ」で有名な地。レモンのリキュールでたっぷりの甘さをもつ南伊の伝統的食後酒である。キラキラとまぶしく輝くこの地の陽光は柑橘系の果物を栽培するには最適。光をたっぷり浴びて実をいっぱいつけたレモンの樹は誇らしげに見える。こちらはUVクリームをどんなに塗ってもこんがり日焼け。レモンに負けず健康的でいいか・・・と白肌?は断念。こうして外で味わうエネルギッシュな感覚とホテルの持つクールデザインは暖寒コントラストとなって旅人に快適さを与えてくれる。

去年、ミラノにある同じくポンティ設計の「サン・フランチェスコ教会」が日本のINAXの協力で外壁タイルの復元に成功し、修復が成された。この教会は1963年に建てられた彼の名作建築の1つ。外壁全体がポンティのオリジナルデザインの三次元タイル貼りであるが経年変化で修復が必要になっていたと言う。INAXが修復に関わったきっかけはソレントのホテル「パルコ・デ・プリンチピ」を同社の関係者が訪れたことからと聞いている。ホテルに見るポンティのタイル表現の美しさに感動し、サン・フランチェスコ教会のタイル復元への手助けが始まったという。企業が経済機関であるだけでなく文化機関として存在することの有意義さを見せてくれた好例と言える。

こうして国を超え建築遺産が守られていくことは嬉しいかぎり。そして、わが国が関わったことはさらなる喜び。今度ミラノに行く機会があったら、私もこの教会をぜひ訪れたいと思っている。

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