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会員の視察・旅行記

【きまぐれ温泉 旅の宿レポート その1 界ASO(九州 大分県)】細井絵理子(2009年4月)

はじめに

2008年は「温泉」に縁がある年でした。3月に栃木・那須高原(しかも2回!)、6月には今回ご紹介する熊本・阿蘇。そして10月には福井・三国と芦原。大殺界の最後の年になんと贅沢なことをしていたんだと、少し反省しつつ、きっとこれも今年6月にアメリカ・シカゴのNeoConでセミナーを行うための神様の采配だったのだわ……(セミナーのタイトルは”RYOKAN - Japanese Hospitality Design Now-")と、勝手に良い方に解釈しています。

会員の方の中には私以上にもっとたくさんの温泉や旅館を楽しまれている方も多いと思います。そしてそこで感じた様々なことをきっとお仕事に生かしていらっしゃるのだと思います。私もいつか、すてきな旅館をプランしてみたい...と妄想しつつ、少しでも多くの方々に日本の温泉について、旅館について、デザインについて、そして日本のHospitality「おもてなし」について語っていただけたらと思い、不定期掲載「気まぐれ温泉 旅の宿レポート」と(勝手に)題してスタート致しました。

今、このレポートを読んで下さっているそこのあなた!(いきなり強気でスミマセン)、いつこのレポートの執筆依頼が来るかわかりませんので、お覚悟を!ということで、今回、私からスタートいたします。皆様、少しだけお付合い下さいませ。

自然の懐に抱かれて、解放感に心が軽くなる雄大な大地

梅雨に入る直前、2008年6月初旬に、九州の神秘の大地、熊本の阿蘇に降り立ちました。雄大な自然に恵まれたこの地には、地の底からわき上がるようなパワーがあり、雄々しい神々に見守られているかのような不思議な心地よさ、安心感がありました。特に生まれて初めて目にした広大なカルデラの大地にはただただ驚くばかり。車を運転しながら、思わず絶叫。感嘆の声が自然と口をつく、そんなドライブコースを巡って、まずは阿蘇の自然を満喫。旅をする時、宿までの道すがらをいかに楽しめるかが私には重要なのですが、運転しながらこんなに気持ちが良かったのははじめての経験かもしれません。そしてまずは地のもの、名物「地鶏の炭火焼」をいただくことに。

外界を忘れ、ゆっくり静かに過ごせる場所

くじゅう連山の麓、阿蘇五岳と外輪山に広がる大草原を眺望する瀬の本高原にその宿はありました。熊本空港からドライブを楽しみながら約1時間30分の距離。(まっすぐ来れば約70分)熊本県との県境にほど近い大分県に界ASOはあります。

控えめな石の標識を目印に敷地に入ると大きな屋根を持つ車寄せが目に飛び込んできます。黒を基調にしたシンプルな造り。その立地と同じく伸びやかな造りが印象的です。エントランスを入ると、さりげなくデザインされ決して主張しないレセプションがあり、その奥には暖炉を中心に据えたラウンジがあります。高い吹き抜け天井と自然の陽光のみのその場所は適度にほの暗く、素敵な住人のリビングルームに招かれたような気分にさせてくれます。そして正面に大開口部があり、阿蘇の景色を一望。部屋に案内される前にお茶をいただきながら、ふいに海外のリゾートホテルを思い出しました。デザインが似ているというのではなく、自然、大地との向き合い方が近いのだと。南に大きく傾斜した土地に建つ本館(パブリックスペースのみ)からは遮るものなく阿蘇の絶景が楽しめます。地の利を生かした自然に寄り添った設計が心地よいのだと感じました。

プライバシーに徹底配慮した決して華美ではない客室「離れ」

本館の大開口部から直接外に出て階段を下りるとそこには緩やかにうねる下り坂の小道が続きます。小道の両側には本館からは見えない造りになっている「離れ」が12室点在。これも傾斜地ならではの利点。普通ならマイナスとなる強い傾斜もプライバシーの配慮という形でデザインすることでプラスに転じています。小川と木々に囲まれた離れは隣接しながらもプライバシーに配慮した造りになっていて、玄関や窓がお互いの部屋から見えることは決してありません。旅館に泊まって気になることの一つに他のお客様とのニアミスがあります。やましいことがなくても(本当に!笑)廊下などですれ違う時、お互い決して目を合わせませんよね。何となく視線をそらして素知らぬ振りをした経験はありませんか?ここではダイニングでの食事の時間以外、他のお客様と出会うことはありませんでした。建物の向き、植栽の配置で他者の視線を気にすることなくゆったりのんびりと過ごすことが出来ました。

奇をてらわず、温もりあるシンプルなデザインで落ち着く客室

78平米の客室はゆったりとしていて落ち着く空間でした。華美な装飾は一切なく、奇をてらったようなデザインも一つもありません。モダンになりすぎた「尖った和」でもなく、異国情緒も混在していません。現代の日本人が「何となく落ち着くね」そうつぶやくであろうさりげない配慮が家具のサイズ、空間の広さ、素朴な自然素材に表れています。ですから最初の印象よりも過ごす時間が長くなる程に、その良さがわかる、そんな空間でした。別荘としてあったらいいなと思わせる程よい「ゆとり感」と和室や土壁、書の額など控えめな「和」のデザインが今の私たちにフィットしているように感じました。そしてなんと言っても温泉です。外のデッキに配された檜の露天風呂は昼も夜も最高でした。

地のものを食す。地産地消を実現する滋味溢れる料理

食事は部屋ではなく、本館のダイニングで頂きました。仰々しい会席料理や奇をてらったフュージョン料理ではなく、地のものを優しく丁寧に調理した自然体の和食。山と海の食材を美味しく頂きました。美味しい食事で話が弾み、つい写真を撮るのを忘れ、全部はご紹介出来ませんが、写真で味わっていただければ。。。

ホテル?旅館? いいえ、「もう一度行きたい場所」

ここは旅館かホテルかと問われると返答に困ります。でもきっと「もう一度行きたいところだよ」と答えることは出来ます。

実は、ここまでこの宿を褒めるつもりはありませんでした。もちろん素敵な時間を過ごせましたし、一緒に行った両親もこれまでに私が誘った旅館やホテルと比較しても群を抜いて満足してくれました。しかし、このレポートを書き進めるうちに、旅した時は意識していなかった「さりげない」様々な工夫や気配りに気が付いたのです。ここには女将はいません。いわゆる部屋付きの仲居さんもいません。若いけれど、丁寧に対応してくれるスタッフがいました。本館ではいつも目に入る場所に控えているのではなく、何か頼みたい、と思った時に気が付くとそばに来てくれる。あまりにもさりげない気配りとプライバシーを尊重するシステムのため「サービスをしてもらった感」が少なかったのです。でもそれは、誰に気兼ねすることなく、ゆっくり心地よく過ごすことが出来るというとても貴重なサービスだったのです。

この宿には大理石のような高級素材を多用したり、デザイナーの意気込みが剥き出しになった特殊なデザインはありません。(ま、もう少しだけ個性があっても良いかな、とも思いますが。)けれど、そのサービスと同じように「さりげない」気配りのデザインが施され、くつろぐ空間が生まれていたのだと思います。

この宿の「おもてなし」の心には「さりげなさ」と「自然との調和」があり、私にはとても心地良いものでした。

九州には行きたいところが他にも沢山あります。関東にはない自然のパワーに満ちた場所だと感じました。次は是非、紅葉や雪の季節に旅したいです。

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