活動報告
ケンタックノブ 見学記(2013.10.1)
落水荘に程近く、車で20分~30分ほど離れた森の中にケンタックノブは大地に抱かれるように、のびやかに、そして、やさしく私達を迎えてくれました。
この建物は、1954年に竣工したライトの晩年の作品で通年使用の住居という事でした。
私達はピッツバークを訪れる前、シカゴ オークパークでライトの建築を沢山見てまいりましたが、それらとは違って、ずっとやさしく、温かく繊細にして力強い印象を受けました。
当日は小雨模様でしたが、低く、深く出た軒下でガイドさんの説明を待ちました。腕を上げると女性の私達の指先が、軒の天井に触れることが出来るほどでした。
エントランスから中に一歩入ると、ホールはささやかなスペースで右手がパブリック、左手がプライベートスペースと分かれているのが分かります。
右手のリビングルームに入ると、見学者の皆からワーっと感嘆の声があがりました。外の大自然と一帯となり、どの面を見ても丘のしみわたる緑が目に入ってきたのです。そして低い天井に切り取られたような、六角形のトップライトからは、空や樹木が私達に語りかけるかのように楽しくリラックスさせてくれました。
一方、作りつけられたソファの背面の欄間のように細工をされた窓からも、空、樹木たちが見え隠れし、いつも大自然を感じ、充足感に満ちた時間を与えてくれる楽しい空間でした。
モチーフは三角形、六角形、そこから住まいの中に多彩にデザインが広がっています。
素材は、近くで採れる石材、木材を巧みに使い、ファブリックは暖かみのある赤、オレンジ、黄等がアクセントカラーとなっています。
各部屋間は、ドアは無く流れるようにつながっています。プライベートな空間へは間口が極端に狭く、600も無いかしらという程でしたが、このメリハリが部屋を進む毎にドラマを感じさせてくれました。
施主は先に建てられた落水荘を見て、惚れ込みライトに設計を依頼したそうです。通年使用で、長く住み続ける間には、多少の改築などもあったようですが、ライトの設計を損なうことなく、あたかもそうであったかのように、私には見えました。
私は、ずっと以前に読んだライトの本の一節に、ライトが幼い時に母親が言った言葉を想い出していました。遠い親類にあずけられ、つらい、農作業の毎日で、逃げ帰ったライトに、「大地をご覧なさい、自然を愛しなさい。」とケンタックノブに身をおき、住居としてのユーソニアンハウスの完結形とライトが母親から最初に受けた教育、有機的なもの、大自然に学ぶことの大切さ、これらの、集大成のように感じたのでした。
福田三和子
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